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米国特許法判例研究
〜豊栖康司の学習ノート〜
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1999年のIPニュース

1998年のIPニュース


 
1998年12月17日

審査経過禁反言と均等論の関係

 アメリカ特許制度の中でも、均等論は最も大きな問題の一つと言えるでしょう。ワーナージェンキンソン最高裁判決Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co.)以降、CAFCは均等論と、これを制限する審査経過禁反言の関係を検討してきました。1998年11月3日判決のバイ対L&Lウィングス社事件Bai v. L & L Wings, Inc.、担当はリッチ、ローリー、レーダー判事で、判決理由はローリー判事による。)では、審査経過禁反言が適用される条件を、ワーナージェンキンソン最高裁判決を引用しながら具体的にしています。要するに、審査段階でクレームを補正した理由が引例回避のためであることが明らかな場合は、出願人の主張に関わらず審査経過禁反言が適用され、均等論は封じられるということです。
 ワーナージェンキンソン最高裁判決によって、均等論を妨げる審査経過禁反言の適用基準が明らかにされました。すなわち、特許性に関する補正があれば禁反言が働き、均等論が使用できなくなります。これによって、混沌としていた均等論の適用拡大に対する抑止効果が働くのでは、と期待していました。
 しかしながら、その後のCAFCの判断を見ていくと、例えば102条・103条補正があるからといって必ずしも禁反言がすべてにおいて適用されるというわけでなく、結果として均等論の適用される可能性は依然として考えなければならない、という事態が生じていました。(この点については、CAFC判事の間でも議論がありますが。)
 しかし本件では、逆にクレーム明確化の補正に見えても禁反言が生じ、均等論を禁じられることがあると言っているように思われます。要するに、補正の理由が本当に特許性に関するものなのかどうかを、ケースバイケースで判断するということでしょう。
 また別の観点では、均等の判断を陪審にさせるのは危険だから、できるだけ避けたいという願望は(特に被告が日本企業の場合は)強くあると思われます。昨年のセージ事件Sage Products. Inc. v. Devon Industries, Inc., 126 F.3d 1420, 44 USPQ2d 1103 (Fed. Cir. 1997).)により、均等論侵害がない場合は裁判官がサマリージャッジメントで判決できると判示されています。本件ではセージ事件を確認した上で、さらに進めて審査経過禁反言が明らかに適用できる場合は均等論の適用がないので、均等論侵害なしの判決を裁判官が下せると述べています。

出典および関連情報
・アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))
Bai v. L.&L. Wings, Inc., 160 F.3d 1350, 48 USPQ2d 1674 (Fed. Cir. 1998)
Sage Products. Inc. v. Devon Industries, Inc., 126 F.3d 1420, 44 USPQ2d 1103 (Fed. Cir. 1997)
Warner-Jenkinson Co. v. Hilton Davis Chemical Co., 520 U.S. 17, 117 S. Ct. 1040, 41 USPQ2d 1865 (1997)



1998年12月16日

最高裁が判示したオン・セール・バーの適用可否を判断する基準を、CAFCが初めて適用

 既にお伝えしたとおり、米連邦最高裁は1998年11月10日、ファフ事件においてオン・セール・バーの適用基準につき"ready fo patenting"、つまり発明が販売された時点で特許出願できる状態にあれば102条(b)が適用される、と判示しています。(本最高裁判決につき、アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士が詳細な論文を発表されています(PDFファイルなので、アドビ・アクロバットリーダーが必要)。)
 再度、最高裁の判示内容を整理してみますと、以下のようになります。
(最高裁判事の方々は特許の専門家というわけではないので、あまり特許用語の用法にこだわっていないようにも見受けられます。だからというわけでもないのですが、ここでは「レディ・フォー・パテンティング」を『特許の準備』と訳してみました。)

 発明が出願日より1年以上前に販売され、かつ次の(1)(2)からなる二段階テストを具備するとき、102条(b)が適用される。
(1) 販売が商業的なものであって、実験的に行われたものでないこと。
(2) 発明が「特許の準備」、いいかえると特許出願できる状態にあること。これは、例えば以下の事実から証明できる。
 (a) 出願日より1年以上前に発明が実施化されていた。
 (b) 出願日より1年以上前に発明者が、当業者が見れば発明を実施できるほど十分な具体的図面あるいはその他の書類を作成していた。

 さて、上記最高裁の判断に従って、このほどCAFCは1998年12月7日、ウェザーケム社対J.L.クラーク社事件Weatherchem Corp. v. J. L. Clark, Inc., Nos.98-1064, -1078, (Fed. Cir. 1998))において「特許の準備」テストを実際に適用し、ウェザーケム社の特許を無効としています。
 同事件はファフ事件とよく似た状況で、調味料の容器に使うプラスチック製キャップの発明につき、出願の1年以上前に特許権者と顧客との間で商品サンプル、詳細図面、改良依頼、注文等のやりとりが何度かありました。特許権者は出願日より1年前の基準日以降も発明品の改良を続けていましたが、それはクレームされた技術的事項ではない微調整であったこと、発明者の証言などから発明が実施できると期待されていたこと、また基準日以前に図面や進行状況を知る顧客からかなりの量の注文があったということは、発明がすでに完成していて使用できるものであるとの確信があったと予想されることなどから、CAFCはファフ判決に忠実に従って、本件発明は「特許の準備」ができていたと判断しています。
 CAFCが従前の判決であるUMCエレクトロニクス事件(UMC Elecs. Co. v. United States, 816 F.2d 647, 656, 2 USPQ2d 1465, 1472 (Fed. Cir. 1987))等で適用した「全体の状況を斟酌して判断する基準("totality of the circumstances" test)」は最高裁にはっきりと否定されたため、CAFCは当該旧基準を無視して最高裁の見解に従っています。
 なお本件の担当はメイヤー、ミッシェル、レーダー判事による合議体で、判決理由はレーダー判事が書かれています。

情報元
・1998年12月11日付 IPO Daily News
Weatherchem Corp. v. J. L. Clark, Inc., Nos. 98-1064, -1078, (Fed. Cir. 1998)
Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 119 S. Ct. 304, 48 USPQ2d 1641 (U.S. 1998).
Alex Chartove, Esq. (アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Morrison & Foerster LLP))



1998年11月11日

米最高裁、ファフ事件に判断下す/ザーコウ事件開始

 1998年11月10日、連邦最高裁判所は、ファフ対ウェルズ・エレクトロニクス社事件(Pfaff v. Wells Electronics, Inc.)のオピニオン(判決理由文)を発表しました。
 本件では、「オン・セール・バー(on-sale bar)」の適用基準が問題となりました。要するに、特許出願日より1年以上前に発明品を販売すると、米国特許法第102条(b)に該当しますが、この規定を厳格に適用するか、何らかの例外を認めるかが争われていました。(上告の基となった控訴審判決は、Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 124 F.3d 1429, 43 USPQ2d 1928 (Fed. Cir. 1997)参照。)
 最高裁は、従前のCAFC判決で採用された「販売の時点で発明が実質的に完成していたか」否かという基準("substantially complete" test)や、ファフ側の申し立てていた「発明の実施化は発明者の不利にならないよう厳格に適用すべき」との主張を退けています。
 そして、これらの代わりに「問題となっている発明は、特許取得の準備が整っているか否か」という基準("ready to patent" test)を導入しています。この評価基準によれば、出願日より1年以上前に次の2つの要件が満たされた場合、オン・セール・バーが適用されます。以下は、判決理由からの引用です(判決は全員一致、起案は、スティーブンス最高裁判事)。

1.製品が商業的販売の申出(commercial offer for sale)の対象となったこと
 発明者は、自身の発明を商業的に販売する最初の時期を知ることができるし、変更することもできる。例を挙げれば「実験的使用の例外(experimental use doctrine)」に不明瞭との懸念が生じたことはないし、また発明者が管理できない不確かな事象のために、102条(b)「オン・セール・バー」(出願準備のできている発明が最初に商業的販売の対象となった日に対して適用される)の適用を評価する新たなルールになぜ傾注しなければならないかという理由が見受けられない。
 本件では、1981年4月8日に先立つ注文書の受領から、販売の申出が行われ、また当該販売がその性質上、実験的でなく商業的であることに疑いないことは明白である。

2.発明は、特許取得のための準備ができている(ready for patenting)こと
この条件は、少なくとも2つの手法で満たすことが可能である。すなわち、
 (i) 基準日以前に発明が実施化されていたことの証明
 (ii) 基準日以前に発明者が、当業者であれば当該発明を実施できる程十分具体的に、発明の図面や他の記述物を作成していたことの証明
 本件では、ファフ氏が基準日より前に製造業者に送った図面が発明を十分に開示していたので、この2番目の要件は具備されている。

 言葉にしてみれば、この意見は明解です。つまり、

  1 「商業的に販売の申出があり」(∵実験的使用の例外があるから)、かつ

  2 「販売の対象となった発明が特許出願できる状態にあること」
(∵102条でいう「発明」にまだなっていなければ、適用されない。発明になっているか否かは、現実の製品の有無でなく、それが出願できる状態かどうかで判断される。たとえ発明が未だ実施化されていなくても、図面や明細等があれば「出願できる状態」と判断され得る。)

 上記に該当すれば、オン・セール・バーが適用されるでしょう。個人的には、これまでの基準や考えを大きく覆す意見は、今のところ見られないように思います。
 この情報は、アレックス・シャルトーヴ特許弁護士より頂きました。

情報元および関連資料
・アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))
Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 124 F.3d 1429, affirmed, 119 S. Ct. 304, 48 USPQ2d 1641 (Argued October 6, 1998, Decided November 10, 1998).


審判での事実認定を再審理する基準は?

 なお、本件とは全く別件の情報ですが、先頃最高裁は、ザーコウ事件(In re Zurko, 142 F3d 1447 (Fed. Cir. 1998) (in banc), Decided May 4)の上告を認めています。ザーコウ事件では、米特許庁で行われた事実認定に関して上級審で審理し直す場合の(要するに審決取消訴訟における)審理基準が争われています。本件では、CAFCは本年5月、行政手続法(Administrative Procedure Act)に照らして、特許庁が行った事実認定を再審理する場合の審理基準は、「明白な誤り」があったか否かという基準("clearly erroneous" standard)が適用され、他の「実質的証拠(substantial evidence)」や「恣意的または気まぐれ(arbitrary and capricious)」等の基準ではないと判断しました。これに対して特許庁側が上告を申し立てていたものです。こちらの事件の方が、実務的には興味あるところです。本件の検討は、例えば松本直樹弁護士のホームページや、服部健一米特許弁護士が「発明」誌上で紹介されていますので、御確認下さい。
 また、「Kenのアメリカ法の散歩道」にも、審理基準について判りやすい説明がありますので、一読をお勧めします。

情報元および参考資料
・1998年11月11日、3日付 IPO Daily News
In re Zurko, 142 F3d 1447 (Fed. Cir. 1998) (in banc)
「松本直樹氏の米国特許法研究室」
「Kenのアメリカ法の散歩道」



1998年10月16日

鑑定書があるからといって油断はできない?故意侵害を防ぐ鑑定書とは?

 ご存じの通り、アメリカの裁判が恐れられる理由の一つに、三倍賠償(+弁護士費用)制度があります。つまり、侵害が故意に行われたと陪審または裁判官に認定されれば、裁判官は自分の裁量で損害賠償額を三倍まで増やすことができます。例えば日本の会社が米企業に訴えられて地裁で破れた有名なケースでは、同社が控訴より和解を選んだ理由の一つとして「最悪の場合は三倍賠償を認定される恐れがあった」という話が聞かれました。
 日本でも最近三倍賠償制度を導入しようという動きがありましたが、結局見送られています。
 故意侵害に関して注意すべき事項はかなり多いですが、予防策としては「鑑定書」を予め入手しておき、侵害回避のために相当の注意を払っていたことを示すというのが一般に行われています。
 ただ、鑑定書さえ取っておけばOKというのでは当然なくて、鑑定書があっても故意侵害が認定されることは十分あり得ます。こうした事態を避けるために、まず鑑定書としての適格を十分に備えたものでなければなりません。例えば、鑑定書中には対象となる製品、製法が正確かつ完全に記載されていること、事実に関する誤りが見つかれば鑑定書作成後でも訂正すること、設計変更等があれば直ちに弁護士に知らせること等が必要です。
 そのような鑑定のあり方について扱った事件が、コマーク事件(Comark Communications, Inc. v. Harris Corporation)です。本件は1998年9月9日のCAFC判決で、担当判事はニューマン、シャル、ガヤーサ判事による合議体であり、判決文はガヤーサ判事が書かれています。
 要するに、弁護士にははじめから全部話しておくのが安全、それがたとえ不利な情報であっても、隠しておくと後々のためにならない、ということのようです。

情報元
・アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))
Comark Communications, Inc. v. Harris Corporation, 156 F.3d 1182, 48 USPQ2d 1001 (Fed. Cir. 1998).



1998年10月8日

連邦最高裁でオン・セール・バーに関する口頭弁論開かれる

 アメリカでは訴訟が多いので裁判所が忙しく、特に合衆国連邦最高裁判所が特許事件の上告を取り上げることは希です。(最近では1997年のマークマン、ヒルトンデイビス事件が記憶に新しいところです。)
 さて、毎年数多く提出される上告の内から、最高裁に認められた数少ない特許事件であるファフ対ウェルズ・エレクトロニクス社事件(Pfaff v. Wells Electronics, Inc.)の口頭審理が先頃、1998年10月6日に開かれました。
 本件は、米国特許法第102条(b)の要件である、特許出願日より1年以上前に発明品を販売する行為を禁止した、いわゆる「オン・セール・バー」の適用について争われています。(上告の基となった控訴審判決は、Pfaff v. Wells Electronics, Inc., 124 F.3d 1429, 43 USPQ2d 1928 (Fed. Cir. 1997)参照。詳細は、アレックス・シャルトーヴ特許弁護士の論文(日本語訳)をご覧下さい。)
 この件で最高裁は、オン・セール・バーに関して具体的にどのような商業活動であれば102条(b)の「販売」に該当するか、という詳細なガイドラインを確立するものと期待されます。

 この日の口頭審理の概要は以下の通りです。
 ファフ氏は、出願に係る発明を含んだ製品の購入注文を受けてから1年以上経過後に米国出願を行いました。下級審であるCAFCは、発明が「販売」状態に置かれてから特許出願までに12カ月以上経過しているため、特許は無効と結論しました。
 最高裁において発明者は、注文受領時においては発明が完全に試験されておらず、したがって発明者は「十分完成された」製品を保有していなかったため、この時点では1年の猶予期間(grace period)は開始しないと主張しました。対する被告侵害者側は、発明者は既に完成された発明を有していたので、グレース・ピリオドの引き金となる「販売」が明らかに行われていたと主張しました。以下は、各最高裁判事の意見です。
 ブレイヤー最高裁判事は、発明の詳細部分が発明者の計画においてどの程度重要性を持つか、という点に関心を示されました。同判事は、発明の設計がかなり詳細であれば、通常の知識を有する者であれば誰でも、詳細が判明している製品を構成することができるであろうと述べられました。そのような場合は、大きな修正作業は必要ないので、設計の事実のみで製品は「販売」に該当するかもしれない、設計の過程で発明者は、完成までに多くの設計変更を行うであろうが、製品がどのような形になるかという大体の構想はおそらく抱いているだろう、また発明者はすべての設計変更をそれぞれ特許出願しなければならない訳ではない、と同判事は強く提案されました。
 一方、スカリア最高裁判事は、製品の購入者にとって設計の詳細部分は重要か、あるいは少なくとも関連する事項であるかどうかを問題とされました。同判事は、購入者が関心を示すのは、購入者の所有物となる製品が完全なことである、と提案されました。つまり、細かな特定の仕様や変更が重要なのではない、よって、購入者が問題となっている物品を所有し、使用できるまでは、その物は本当の意味で販売されていない、合理的な者であれば、製品について漠然としたアイデアを購入することには同意しないであろう、と述べられました。
 ソーター最高裁判事は、ユーモラスな例を挙げてスカリア判事が問題とした点を争いました。同判事は、コンピュータがどのように動作するかを本当に理解していないし、その必要もない、したがって設計仕様の詳細などは購入者に全く関係なく、購入者は製品を購入したいと思ったときに、最初に望んだサービス(又は動作)を製品が果たせるか否かに関心があるだけである、と述べられました。
 同様にギンスバーク最高裁判事も、(同女史の意見は非常に少ないですが、)実際のところ、発明は現実の実施化がされる前に特許化することが可能である点を確認されました。いいかえると、発明を保護を求める発明者は、発明改良の早い段階において特許出願する権利を認められているが、出願に関して定められた法定期間を超えた場合でも、それ以外の保護を受けられる訳ではない、ということです。
 一方で、ケネディ最高裁判事は、購入の契約書を作成した発明者(販売者)に責任をおくべきである、そうすれば「販売」日は保護されるであろうと提案されました。同判事は、早い段階での取引(本件においては、取引の時点ではまだモノが見えず、試験もされていない製品の購入に関する議論)を、法律は製品が「販売された」兆候とみなしているかもしれない、と述べておられるようです。
 オコナー最高裁判事は、製品開発のどの段階が「販売」を構成するか判断する問題に力点を置かれました。
 レンキスト最高裁裁判長とトーマス最高裁判事は、弁論の間ほとんど言葉を発しませんでした。

 本件の判決は、来年1999年5月頃下されると思われます。なお、この情報はアレックス・シャルトーヴ特許弁護士より頂きました。

情報元
Alex Chartove, Esq. (アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Morrison & Foerster LLP))
・1998年10月7日付 IPO Daily News



1998年10月7日

パソコン出願に最適なワープロ登場

 先日、「STARDUST NEWS」でお馴染みの竹山先生が大阪で講演されたパソコン出願の説明会に参加してきました。その中で、「一太郎9」はパソコン出願用のHTML変換機能を備えている、との情報をいただきました。そこで、早速購入して試してみました。結果は良好です。
 旧バージョンの「一太郎8Office Edition R2」だと、多数の「警告」メッセージが表示されていたので、確認が大変でした。特許庁の話では、「警告」の中には重大なものもある、という話でしたので。(だったら、「エラー」で統一してほしいものです。最新バージョンでは、「重度の警告」「軽度の警告」という風に区別されていますが、軽度なら全部無視していいんでしょうか。)
 今回の一太郎9だと、「メニュー」→「他形式の保存/開く」→「HTML形式で保存」をたどると、保存形式の欄で「HTML形式(特許)」という選択が可能になります。これを使うと、不要なタグは付加されなくなります。パソコン出願ソフトで文書チェックをかけた後、「正常に終了しました」というメッセージが表れると、気持ちがいいです。
 これで、「警告になったものがあります」とのメッセージとおさらばできる、と思いきや、残念ながらまだクリアできない警告がありました。それは、イメージの保存形式です。GIF形式で保存する場合、ノン・インターレスのVersion 87aという形式で保存しなければならないのです。残念ながら、「花子9」も「花子フォトレタッチ」も、このファイル形式では保存できないようです。(「花子フォトレタッチ」は、大きなサイズの図面を取り込めないという致命的欠点あり)
 ちなみに、斉藤美晴「使えるパソコン特許出願」(発明協会刊)の206ページには、「Paint Shop Pro 4.2J」だと87aノンインターレス形式で保存できると書かれています。

 とにかく、一太郎派の私としては、これで特許出願用には「ワード」でなく一太郎派が復活するのでは、と期待しています。先の竹山先生のお話でも、特許事務所ではワード派が多数を占めているらしいとのことでした。その理由は、初期の一太郎8(おそらく、オフィス版でもプレミアム版でもない、最初に出た一太郎8)は、HTML変換機能がうまく働かなかったため、ワードを選ばざるを得なかったということらしいです。確かに、先の「使えるパソコン特許出願」にも、247ページに「以前の一太郎8では、上付き下付きタグやアンダーラインのタグが自動的に付かない」と書かれています。
 しかし、一太郎9の登場で、タグの掃除のためだけに数万円もするサポートソフトを購入する必要がなくなったのは、かなり大きいと思います。

情報元
・竹山 宏明 弁理士


1998年9月22日

既知の構成要件の組み合わせでも、組み合わせが「自明」でない限り特許の対象

 少し遅くなりましたが、ルッフェ事件についてお知らせいたします。(In re Rouffet, 47 USPQ2d 1453 (Fed. Cir. 1998).担当判事はプレーガー、アーチャー、レーダー判事による合議体で、判決文はレーダー判事が担当。)
 1998年7月15日判決と、ちょっと古い事件(既にUSPQの頁数が判明していることからも明らかなように)ですが、自明性の要件を再確認しておく意味でも良いかもしれません。
 本件では、先行技術文献に既に記載されている公知の要素同士を組み合わせた発明について、審査官が自明性を理由に拒絶するには、組み合わせを示すきっかけ−明示または黙示の記載、示唆、常識の範囲内であったこと等を示さなければならない、と判示されています。逆に言えば、審査官が組み合わせの示唆を指摘できない場合、既知の構成要件の組み合わせであっても特許される、ということになります。
 本件の審査段階で審査官は、示唆の代わりに「当該技術分野では技術レベルが高い」ということに基づいていました。技術レベルが高いことは、発明が従来技術と差が少ない場合にこれを否定できること(技術者のレベルが高ければ、少々の改良は予期できるということでしょうか?)は認められました。
 しかし、いかにレベルが高くても、引例の組み合わせについてはそのきっかけが必要ということです。(これは考えてみれば当然のことで、仮に「技術水準が高度」という理由で自明にできるなら、審査官は内容を深く検討しなくてもこの理由を使って拒絶できるので、まじめに審査しなくなることが考えられ、ひいては審査の質の低下を招くおそれがあります。)

 なお、過去の米国においては、既知の構成要件の組み合わせは、特有の相乗効果(synerzism)を欠く場合自明とされていました。(「ネガティブ・ルール」と呼ばれる消極的基準。この時期の特許要件は極めて厳格であった)その後、1965年のグラハム事件で最高裁は非自明性の判断基準を明らかにし、3つの事実、すなわち@先行技術の範囲・内容、A先行技術と特許発明の相違、B当該技術分野の技術水準、に基づき判断すべきとしました。
 そして、上記事実から非自明性が判断できない場合に限って、「二次的証拠」という間接的事実が検討されるようになったようです。
 さらに1982年のCAFC設立後、非自明性の判断基準は大幅に緩められることとなりました。特に、「組み合わせの発明に対し特有の相乗効果を非自明性の要件として要求することは、103条の特許要件を超える要求であり、不当である。」(Chore-Time Equipment v. Cumberland, 218 USPQ 673 (Fed. Cir. 1983))と判示するなどして、ネガティブ・ルールの影響を低下させると共に、「二次的証拠は常に考慮しなければならない」として(In re Senaker, 217 USPQ 1 (Fed. Cir. 1983))、非自明性判断の積極的要因としての重要性を認めました。
 自明性の歴史的変遷は、村上政博「特許・ライセンスの日米比較」(弘文堂・1990)23-25頁等に簡潔にまとめられていますので、ご興味のある方はご覧下さい。
 また自明性の適用についての詳細は、米国特許審査便覧(MPEP)を参照されるのが良いでしょう。例えば、1998年9月現在のMPEP最新版である第6版3訂(間もなく改訂されるでしょう)では、706.02(j)に一般事項、2143に詳細事項が定められています。MPEPは、比較的簡単に入手できる上、アメリカの審査官が実際の実務で使用しているものですから、米国特許実務を本格的に学ぶには最も有用かと思われます。
 

 なお、以前から告知されていましたが、空席になっているCAFC判事の候補として挙げられているTimothy B. Dyk氏が、先日上院司法委員会で承認されました。昨年暮れにアーチャー前首席判事がシニアの地位を取得したため(シニア・ジャッジになるとパートタイム勤務となり、仕事量が相当減る。なお、現首席判事はメイヤー判事が担当)、CAFC判事に空席ができていましたが、今年4月にクリントン大統領が同氏を指名していました。今後、上院全体での承認手続にかけられるものと思われます。ちなみに、同氏は特許畑ではないそうです。

情報元

In re Rouffet, 47 USPQ2d 1453 (Fed. Cir. 1998).
http://www2.ipo.org/ipo/InreRouffet97-1492.html
・1998年9月15日付 IPO NEWS
・1998年8月3日付 The National Law Journal (p.A01)
・浅見節子「米国における特許訴訟−連邦巡回控訴裁判所を中心に−」発明1998年8月号(発明協会)
Graham v. John Deere Co., 383 U.S. 1 (1966).
 http://laws.findlaw.com/US/383/1.html
Chore-Time Equipment v. Cumberland, 218 USPQ 673 (Fed. Cir. 1983).
In re Senaker, 217 USPQ 1 (Fed. Cir. 1983).
・村上政博「特許・ライセンスの日米比較」(弘文堂・1990)


1998年8月7日

ビジネスの方法は、特許の対象

 少し遅くなりましたが、非常に注目されていた事件であるステート・ストリート・バンク事件(State Street Bank & Trust Co. v. Signature Financial Group, Inc., Nos. 96-1327 (Fed. Cir. 1998))の1998年7月23日付CAFC判決をレポートいたします。本件は、長年争われてきた「ビジネスの方法が発明の対象となるか」との議論に終止符を打つものとして、重要な意義を持つものと思われます。結論自体は「特許になる」といたってシンプルです。
 端的に言えば、
       発明がソフトウェアやビジネスの方法を対象としていることを問題にするのではなく、発明が有用かどうかが問題なのであり、有用性を具備しておれば米国特許法第101条に規定される発明としての用件を満たす、
       あとは、他の分野の発明と同じく、すべての特許要件(102条、112条等)を満たせば、特許となる、ということです。
 従来から、ソフトウェアの特許やビジネスの方法に関する特許は認められない、または認められにくい、という考えが根強く、保護手段として特許の代わりに、例えばトレードシークレット等を使用せざるを得なかったようです。特に金融業界では、長年サービスや商品につき特許が取得できないとの先入観があったため、あまり特許出願がなされておらず、また侵害の問題も検討されてこなかったようです(シティバンクやVISA等、力を入れている企業も例外的にあり)。ですから今後は、金融商品に関しても出願や訴訟が増加する可能性があると思われます。

 なお、本件の担当はリッチ、プレーガー、ブライソン判事による合議体で、判決文はリッチ判事が担当しています。ご存じの通り、同判事は現在94歳、アメリカ史上最長の現役連邦裁判官を務めておられます。参考までにジャイルズ・リッチ判事は、コロンビア大ロースクール卒、1952年特許法を共同で起案、1954年アイゼンハワー大統領より連邦裁判官に指名されるといった輝かしい経歴をお持ちです。
 リッチ判事をはじめ、CAFC判事の詳細な経歴は、CAFCのサイトで確認できます。

 さらに話は脱線しますが、弁護士の経歴もインターネットから調べることができます。最近、Martindale-Hubbell社が、http://www.lawyers.com/という便利なサイトを開設しています。同社は長年にわたり、「The Martindale-Hubbell Law Directory」という法律事務所や弁護士の名簿を発行してきており、この分野では非常に権威を持つそうです。おそらくほとんどのアメリカの法律事務所は、この本を図書室に備えてあるでしょう。ただ、27巻もあって、とにかく分量が多く扱い難そうな印象がありました。
 あの分厚い弁護士名簿をインターネット上で容易に検索できる、というのは画期的ではないでしょうか。これまでも、ネット上からの弁護士検索はある程度可能でしたが、今回のこれは情報量が絶大ですし、信頼性もピカ一でしょう。特定の法律事務所の住所や弁護士の経歴を調べたい時は有効です。電話番号や電子メールアドレス、ホームページの有無も(公開していれば)判ります。試しに、特許関係で日本語ができるワシントンDCのローヤーをサーチしてみると、3人の方がリストアップされました。

情報源

Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP), "Methods of "Doing Business" are now Patentable - A Report on the CAFC'S State Street Decision.", August 5, 1998.
State Street Bank & Trust Co. V. Signature Financial Group, Inc., Nos. 96-1327 (Fed. Cir. 1998)
 ftp://ftp.fedcir.gov/fedcir.gov/96-1327.exe
・Erwin J. Basinski (Morrison and Foerster, LLP), "Computer Program Product Claims Allowed By the European Patent Office -- Impact on Software Patent Claiming?", FindLaw Library (March 1999).
http://library.findlaw.com/scripts/getfile.pl?FILE=firms/mofo/mf000017&TITLE=Recent
・1998年7月24日付 IPO DAILY NEWS
・1998年7月30日付 Internet Patent News 19980729 (by Greg Aharonian)


1998年8月6日
 
 

ショート・ニュース

本ペ−ジのタイトルと少し外れますが、日本ネタから...

1.日本特許庁、商標データのインターネット無料公開を開始

 既にお伝えしたように、1998年7月31日より特許庁ホームページにて、従来の特許に加えて商標の無料検索が可能になりました。日中はアクセスが多いようで、なかなかつながりませんが、夜なら大丈夫なようです。
 いつからのデータが蓄積されているのかについては、現在公表されていないようですが、かなり使えそうです。
 残念ながら、「指定商品・役務」での検索は現在の所できません(類似群コードによる検索は可能)。 これが可能になれば、新製品の商標登録出願の際や、類似区分に例示のない商品・サービスの表記の際に、大いに参考にできて便利だと思うのですが... (現在、紙による公告リストは発行されていますが、「あいうえお順」なので使いにくく、またIPCのようにCD-ROM化はされていません。)

2.日本特許庁、パソコン出願ソフトv1.02bを公開中

 本年1998年4月から、ISDNを使ったパソコン出願の受付が開始されています。ソフトは、特許庁に申し込めば無料でCD-ROMが送付されます。(但し、送料のみ負担しなければなりません。着払いで420円です、多分。)メジャーなバージョンアップがあれば、新しいCD-ROMが特許庁から自動的に送られてくるので助かりますが、マイナー・バージョンアップは自分で「運用サーバ」からダウンロードしなければなりません。それはいいのですが、問題はマイナー・バージョンアップの予定が判らないことです。
 「運用サーバ」のスケジュールにも、いつマイナー・バージョンアップが予定されているのか、記載されていませんでした。したがって、定期的に運用サーバにアクセスする必要があります。(実はそれが特許庁の狙いか?FAQをはじめ様々な情報が掲載されているので、のぞいてみる価値(必要)はあると思います。しかし、定期的に確認するのは...)
 もっとも、メジャーなバージョンアップは予定日が発表されており、またソフトも自動的に送付されますので、それほど気にする必要はないのかも知れません。
 1998年8月7日現在の最新版は、バージョン1.02bです。1.02aからの変更は、ほとんどありません。



3.興味深い記事の紹介

a.ノウハウ温存テクニックは今年いっぱいまで

 日本では、一旦特許出願を行うと、出願を取り下げない限り「先願」の地位が残ります(特許法第39条)。要するに、この出願と同じ内容を後から出願しても、特許を受けることはできません。仮に出願公開前に出願を放棄すると、出願公開されず、つまり一般に公表されないまま、先願の地位を残すことになります。
 これを利用して、発明をノウハウとして秘密にしておきたいが、他社の権利化は阻止したい、という場合に上記テクニックが使用されていたようです。 (但し、この場合後で気が変わっても自分で再出願して権利化することは不可能です。)
 しかしながら、公開もしていないのに後願排除効を与えるというのはどう考えても公平の理念に反することで、以前から問題とされてきました。(吉藤「特許法概説」等参照。第9版では150頁)
 そして、ついに来年1999年1月1日施行の法改正により、公開前に放棄した出願には先願の地位を与えない、ということになりました(出願の放棄も取り下げも同じ効果になる?)。結果的に、上記のテクニック使用期限は本年限り、となります。

参考文献

・”使用期限”は今年末−−「出願放棄」で技術を守る(1998年6月1日)
    Biz-Tech日経BP社


b.CAFCの内情

 ナショナル・ロー・ジャーナル誌から興味深い記事を発見しました。CAFCは本当にうまく機能しているのか、という問題です。

「ひび割れたCAFC判事〜CAFCの派閥主義によって判決の不一致が増大していると特許弁護士は指摘〜」
http://www.ljx.com/topstories/072898new4.htm

 これは是非原文で読んでいただきたいですが、要するに、CAFC内部には派閥があって、特許擁護派と反対派の対立が根強く残っている。その結果、判決に不一致が生じている。従って、実際の裁判ではどの判事に当たるかによって結果が大きく左右される。これでいいのか?という話です。
 興味深いのは、「裁判審理中に判事が口論を始めたので、(いたたまれなくなって)思わず机の下に隠れたくなった」という匿名希望の弁護士談や、1995年の有名なマークマンCAFC判決において、チーフ・ジャッジのメイヤー判事(H. Robert Mayer)が同意意見中で述べた、「多数派の意見は『200年以上続いた法体系を投げ捨てて、陪審の役割を骨抜きにし』、『正当とは認めがたいエリート主義を吹き込んだ排他的な独断論』である」と、かなりの口調で攻撃していること等々です。(Markman v. Westview Instruments Inc., 2 F.3d 967 (Fed. Cir., 1995) (en banc). )実際、私たち日本人が考える以上に、共和党と民主党との対立は根深く、あちこちで見えない壁を作っているらしいです。
 現在、新判事の任命の問題や、著作権も審理対象とするように裁判管轄を拡大すること等が検討されているようですが、果たして...

出典
The National Law Journal (p. A01)  Monday, August 3, 1998
"Federal Circuit Judged Flawed" -IP lawyers say court's factionalism breeds inconsistent rulings.
 by VICTORIA SLIND-FLOR (NATIONAL LAW JOURNAL STAFF REPORTER)
 


1998年7月29日

不衡平行為による権利行使不能について

1.係属中の関連出願を報告しなければ開示義務違反になるか?

 CAFCは、1998年7月20日、アクロン・ポリマー・コンテナ社対エクセル・コンテナ社事件(Akron Polymer Container Corp. v. Exxel Container, Inc., Nos 97-1438 (Fed. Cir. 1998)、担当判事はニューマン、ミッシェル、クレベンジャー判事で、判決文はクレベンジャー判事による)において、文献の開示ではなく係属中の別出願の存在をPTOに知らせなかったことが開示義務違反となるかどうかに言及しています。
 オハイオ北部地区連邦地方裁判所は、特許権者が審査段階で、類似の技術事項を含む別出願の存在を審査官に知らせなかったことは重要情報の非開示であるとして、不衡平行為のため特許権は行使不能と判決していました。
 これに対しCAFCは、特許権者が逆に当該別出願の審査においては、訴訟に係る特許出願の存在を別出願の担当審査官に知らせていたため、欺瞞の意図が認定されるレベルにあったとは立証されていないと判決し、地裁判決を覆しました。要するに、地裁は別出願での開示について十分考慮していなかった、ということになります。
 裁判所が欺瞞的意図を審理する際は、善意の証拠も含めたすべての証拠を考慮しなければならない、とCAFCは先にギャンブロ・ランディアAB対バクスター・ヘルスケア社事件(Gambro Lundia AB v. Baxter Healthcare Corporation, 110 F.3d 1573, 42 USPQ2d 1378 (Fed. Cir. 1997))で述べています。

情報元および参考資料
・1998年7月21日付 IPO Daily News
Akron Polymer Container Corp. v. Exxel Container, Inc., Nos 97-1438 (Fed. Cir. 1998)
Gambro Lundia AB v. Baxter Healthcare Corporation, 110 F.3d 1573, 42 USPQ2d 1378 (Fed. Cir. 1997).


2.「権利行使不能」の共倒れを逃れるには?

 次は一ヶ月ほど前のニュースです。
 米国特許の「無効」と「権利行使不能」の主張は、両者ともアメリカの裁判における被告側の抗弁として用いられる常套手段です。一般に、特許の無効はクレーム毎に判断されるのに対し、権利行使不能は、不衡平行為が一つでもあると、該当する出願のみならず継続出願等の関連出願も含めて、すべてのクレームが権利行使不能にされると理解されています。
 しかしながら、必ずしも「すべて」が権利行使不能となるわけではない、とCAFCは1998年6月30日、バクスター・インターナショナル社対マグロウ社事件(Baxter International, Inc. v. McGaw, Inc., 47 USPQ2d 1225 (Fed. Cir. 1998).担当判事は、プレーガー、レーダー、ガヤーサ判事で、判決文はガヤーサ判事が担当。)で判示しています。
 本件の特許権者は、親出願の審査段階で「重要」な文献を開示しなかったため、不衡平行為により特許権を行使不能とされました。しかし、当該文献が「重要」とならない子出願が、限定要求の結果提出されていたので、当該分割出願から得られた特許に関しては権利行使不能とならないと判示されたのです。すなわち、問題となる文献とは無関係なクレームで分割出願を行えば、その特許は親出願の不衡平行為から逃れられる可能性があります。
 しかし、せっかく不衡平行為から助かったのに、本件特許は最終的に無効と宣言されてしまいました。その理由は、分割出願が親出願と同時継続していなかったためです。

情報元および参考資料
 

Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP), "Out of the Frying Pan and into the Fire - A Patent May Survive an Attack on Enforceability Only to be Declared Invalid.", July 19, 1998.
Baxter International, Inc. v. McGaw, Inc., 47 USPQ2d 1225 (Fed. Cir. 1998).


1998年7月28日

IDS提出の問題点−米国出願の際、日本語文献の英語翻訳文は必要か?

 米国の実務では、出願人は情報開示義務(duty of disclosure)が課せられています。いいかえると、出願人は自身が知っている重要な情報はすべて特許庁に報告しなければなりません。「重要(material)」とは、仮にそのような文献や情報を提出した場合、当該出願の審査において、審査官がこれらの文献等を特許性と関連するものであると判断すると思われる、という意味です。従いまして、一般に日本出願に対応する米国出願を行う場合、当該日本出願で引用された文献を提出する必要があります。ここで問題になるのは、その日本語の文献に、英語翻訳文を付ける必要があるか、という点です。
 米国特許法施行規則1.98(c)および米国特許審査便覧609によると、出願人は英語翻訳文が容易に入手できない場合は、文献の翻訳文提出を義務付けられてはいません。
 しかしながら、同規則1.98(a)(3)によると、文献との関連性を示す簡潔な説明(concise explanation of the relevance)が要求されます。この説明文は勿論英語ですが、慎重に作成しないと問題を引き起こす可能性があります。たとえば、審査官はこの説明文を出願発明の特許性に対して引用することがあり、また第三者は特許後になって、この説明文に基づき非侵害や特許無効を主張するかもしれません。要するに、禁反言を引き起こすリスクがあるということです。
 したがいまして、このようなリスクを避け、また説明文作成のための手間、時間、コスト等を考慮しますと、日本語文献の内、出願発明と関連する部分についての逐語訳か要約を提出しておくことが安全かと思われます。

参考文献
・米国特許法施行規則(37 C.F.R.)
・米国特許審査便覧(MPEP)
「米国におけるIDSの内容的要件」龍華明裕

協力
Warren M. Cheek, Jr., Esq. (Wenderoth, Lind & Ponack L.L.P.)


1998年7月27日

日本特許庁、世界初の「商標」情報インターネット無料開放

 わが国特許庁のホームページにて、「インターネットによる商標出願・登録情報提供サービスの開始について」が発表されています。先日の米国特許庁の発表に触発されてのことでしょうか?(1998年7月1日付IPニュース参照)
 「200万件の商標出願・登録情報について検索機能を付けたうえで、特許庁ホームページを通じて無料で提供」となっています。
 しかも、開始は平成10年7月31日ということで、間もなく使用可能となります。(早くサービスを開始して、「世界初」を名乗りたい??)
 文字の部分に付き、検索機能も付加されるということで、パトリス並の使い勝手が実現できるかもしれません。ただ、従来から商標の調査にはパトリスの機能では不向きな面があり(基本的に完全一致のものしか検索できないため、称呼等の類似した商標をリストアップできない)、このため特許事務所等では、類似の検索が可能なブランディを使用することが多いかと思います。
 今回の特許庁の検索機能がブランディを脅かすほどのものとなるとは考え難いですが、簡単なサーチや書誌的事項の確認等には十分活用できるでしょう。
 また、これに限らず多くの無料特許データベースが整いつつありますが、どなたかが有効な検索テクニックを研究、公開してくれないものかと密かに期待している私です。

情報元
・1998年7月23日付 日本特許庁ホームページの公式発表


1998年7月1日

米国特許庁、無料データベース拡充計画を発表−商標も

 米国特許商標庁長官ブルース・A・レーマン(Bruce A. Lehman)氏は、1998年6月25日、ABA(American Bar Association、米国法律家協会)定例会で、特許および商標の無料データベース拡充計画を発表しました。また、このニュースは米国特許庁のホームページでも公式に発表されています。
 計画によると、商標の文字データは本年8月、商標の画像データと特許の文字データは、本年11月、特許の画像データが文字データとリンクされるのは、1999年3月頃となっています。
 収録されるデータは、1976年まで遡っての特許約200万件の全文、および1800年代後期から更新中の登録商標30万件と、80万件の商標の文字及び図形という、膨大なものです。これらをブラウザーを使って無料で表示し、表示画面の解像度で印刷可能ということです。また、高品質のコピーをメール配信で注文する事も可能(こちらは有料か?)になる模様です。
 これまでも米国特許庁(U.S. PTO)のホームページで、米国特許公報は一部公開されており、無料で利用することができました。しかし、すべての内容が公開されているわけではなく、文字データが中心であるため、主として特許番号や発明者名といった書誌的事項や要約等に限られていました。特に、画像データがほとんどないため、図面を見ることができません。
 このため、特許庁とは別に民間企業であるIBM社がホームページ上で無料で公開している特許データベースが人気を集めています。こちらは、公報をイメージデータとして蓄えているため、図面や明細書全文を確認することが可能です。
 今回の米国特許商標庁の計画が実現すれば、特許のみならず商標まで含めた公報検索が手軽に利用できるようになるので、大いに期待が持てそうです。

 なお、インターネットから利用できる特許公報検索は、最近充実してきています。無料のものでは、日本特許庁を始め、カナダ中国特許庁(現在のところ漢字のみ)等も既にサービスを利用できる模様です。

情報元
・1998年6月25日付 IPO Daily News "USPTO DATABASES TO GO ONLINE"
・1998年6月25日付 ニューヨーク・タイムズ(New York Times "U.S. to Release Patent Data on Web Site" (JOHN MARKOFF)
  (米商務長官ウィリアム・M・デイリーが同日発表した内容を中心に紹介。)

・1998年6月28日付 patent-news "Lehman sleazes patents/trademarks onto the Internet" Internet Patent News Service (Gregory Aharonian)
 (※この著者はレーマン長官が嫌いらしく、かなりの辛口で舞台裏を解説しており、興味深かったです。ニュースは電子メールで配布されており、登録は無料ですから、興味のある方は「Internet Patent News Service」までどうぞ。)

・1998年6月25日付 米国特許商標庁プレス・リリース
"PTO TO MAKE COMPREHENSIVE PATENT AND TRADEMARK DATA AVAILABLE FREE ON THE INTERNET"
"Remarks of BRUCE A. LEHMAN before the American Bar Association"
 


1998年6月26日

ヒルトンデイビス最高裁判決を、どのように解釈すべきか?

 ミノルタとの訴訟で一躍有名(悪名?)になったハネウェル社は、現在リットン社から訴えられております。この裁判は、地裁で陪審により12億ドルの損害賠償が裁定されて(特に日本人の間では)話題になりました。しかしその後、地裁判事が陪審評決を破棄したかと思えば、CAFCでは地裁判事の判断は誤りであったとしてさらに逆転するなど、戦局は二転三転しております。事件は最高裁に上告されましたが、ヒルトンデイビス(正確にはワーナー・ジェンキンソン)最高裁判決に従ってあらためて審理し直すよう、CAFCに差し戻されました。その後CAFCの判決が本年4月にあり、再び地裁に差し戻されていることは既にご報告したとおりです(1998年4月10日付IPニュース参照)。結局ふりだしに戻ったという点ではヒルトンデイビス事件と同じ経路を辿っています。
 この事件につき、大法廷による再口頭審理(rehearing in banc)を求める訴えがされていましたが、1998年6月18日に却下されました。(リットン社は、petition for rehearingをCAFC判事3人の合議体に、suggestion for rehearing in bancをCAFC判事全員に提出しましたが、多数決により却下されました。)
 この際、CAFC判事の内3人が、再口頭審理却下に反対の意見を出しております。つまり、もっとこの問題を検討すべきだと、プレーガー判事(Judge Plager)、クレベンジャー判事(Judge Clevenger)、ガヤーサ判事(Judge Gajarsa)の3人はそれぞれ、反対意見で述べておられます。
 特にガヤーサ判事(同判事は、ニース判事の逝去後に任命された新しい判事です。詳細は、同判事の経歴を参照して下さい。)の意見は3人中一番長いです。同判事は、ヒルトンデイビス最高裁判決中で判示されている審査経過禁反言が均等論を制限する条件を、”特許性に関する理由でクレーム限定が補正された場合は均等論が一切認められない”と解釈しているようです。
 一方、ニューマン判事(Judge Newman)は、却下には同意していますが、個別意見を書かれております。
 
情報元
・1998年6月23日付IPO Daily News
Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 145 F.3d 1472, 47 USPQ2d 1106 (Fed. Cir. 1998)
 http://www.ipo.org/LittonvHoneywell2.htm
Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 140 F.3d 1449, 46 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 1998).
 http://www.ipo.org/LITTONv.HoneyWELL.html
Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 87 F.3d 1559, 39 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 1996).
    http://www.law.emory.edu/fedcircuit/july96/95-1242.html

協力    アレックス・シャルトーヴ米国特許弁護士(Alex Chartove(Morrison & Foerster LLP))



1998年6月19日

 明細書に記載してクレームしなかった事項は、保護されるか?

 1996年のCAFC判決であるマックスウェル事件(Maxwell v. J. Baker, Inc.)によると、出願人が明細書に記載していたもののクレームしなかった事項については、公衆に放棄したものとみなすと判示されています。この法理は、最近もブランズウィック事件で同じくCAFCによって確認されています(Brunswick Corp. v. U.S.、※ただしこの事件は"unpublished"、つまり先例としての効力を持たない判決です。これに対し、注目を集める判決の多くは"published decision"と呼ばれる、後の事件に対し先例としての拘束力を有する判決です)。
 しかしながら、CAFCがつい先日下したYBMマグネックス事件(YBM Magnex, Inc. v. International Trade Commission)では、上記と逆のことが判示されています。すなわち、明細書中で開示されていたがクレームしなかった事項についても、均等論が適用されるというものです。
 YBMマグネックス事件では、本件とマックスウェル事件とは区別できると述べられています。従って、いずれの法理が適用されるかはケースバイケースで判断されると思われますが、今後どのようにしてこれらを区別するかについては、はっきりと説明されておりません。
(あくまで個人的見解ですが、アメリカ人弁護士の話を聞くと、開示したがクレームしなかった事項が、クレームをサポートする明細書の適切な開示範囲に含まれる事項であったか、あるいはこれに含まれない、クレームと異なる実施例であったかどうか、が境界点になるとも考えられます。ただ、このような区別にどれだけ意味があるかは疑問です。)
 このような不一致に対する議論は、今後展開されることとなるでしょうが、不一致の原因を説明する一つのアプローチとして、単にCAFC判事間の見解の相違と見ることができるかもしれません。
 YBMマグネックス事件を担当した判事は、ニューマン判事、リッチ判事、スミス判事(スミス判事はシニア・ジャッジであり、普段は法廷に立たない。ちなみに、94歳のリッチ判事は「シニア」でない!)の3名です。判決文を書いたのは、ニューマン判事であり、「プロパテント」で有名な同女史の面目躍如といったところです。反対意見が出ていないので、上記3名はクレーム解釈を広くとる立場と考えられます。
 またリッチ判事は、1991年のユニーク・コンセプツ事件(Unique Concepts v. Brown)での反対意見においても、この立場をとっているようです。
 これに対し、マックスウェル事件で判決理由を書いたローリー判事は、明らかに均等論を制限する考えのようです。つまり明細書で開示したがクレームしなかった事項は均等論で保護されないということです。ブランズウィック事件の判決理由を書かれたクレベンジャー判事も、ローリー判事と同意見と思われます。
 現時点では、(ニューマンまたはリッチ判事にあたらない限り?)マックスウェル事件に従って、開示したもののクレームしなかった事項は、公衆に放棄したものとみなされ、均等論で保護されない可能性が高そうです。
(なお、今回のニュース作成には、友人のチャールズ・ワッツ特許弁護士にご協力を戴いております。)

情報元
・Charles R. Watts, Esq. (WENDEROTH, LIND & PONACK, L.L.P.)
1998年5月23日付IPO Daily News
    http://www2.ipo.org/ipo/DAILYNEWSChron.htm
・BNA's Patent, Trademark & Copyright Journal, vol. 56, No. 1379 (June 4, 1998).
Maxwell v J. Baker Inc., 86 F.3d 1098, 39 U.S.P.Q.2d 1001 (1996).
     http://www.law.emory.edu/fedcircuit/june96/95-1292.html
・(Unpublished) Brunswick Corp. v. U.S., 46 USPQ2d 1446 (Fed. Cir. 3/31/1998).
    http://www.finnegan.com/cases/97-5017.htm
YBM Magnex Inc. v. International Trade Commission, 145 F.3d 1317, 46 USPQ2d 1843 (Fed. Cir. 05/27/1998).
     http://www.law.emory.edu/fedcircuit/may98/97-1409.wpd.html
Unique Concepts v. Brown, 939 F.2d 1558, 19 USPQ2d 1500 (Fed. Cir. 07/19/1991).


1998年5月13日

ワシントンDCにある控訴裁判所は?

 マイクロソフトと司法省の争いが連日大きく報じられています。
 1998年5月12日に、マイクロソフトの訴えていた「地裁命令はウィンドウズ98には適用されない」との主張を認める判決が、連邦控訴裁判所で出されました。これは、ウィンドウズ95とインターネット・エクスプローラのバンドルを制限した地裁判事の仮処分に対し、マイクロソフト社が当該決定はウィンドウズ98には適用されないとして処分の中止命令を求め控訴していたものです。事件の経緯や詳細は、各紙をご参照下さい。
 なお、各紙の報道では「連邦控訴裁判所(federal appeals court)」、「ワシントン連邦高裁」等と表記されていますが、正確には「米国(※州裁判所でなく連邦裁判所の意味)コロンビア特別区巡回(区)控訴裁判所(U.S. Court of Appeals for the District of Columbia Circuit、※"D.C. Circuit"、"D.C. Cir."と略される)」です。これは1893年に設立された控訴裁判所で、ワシントンDC地区での連邦地方裁判所である"U.S. District Court for the District of Columbia"や、州裁判所に相当する"District of Columbia Court"(ワシントンDCのコモンローを扱う)からの控訴事件を担当する裁判所です。本件は、ワシントンDC連邦地裁からの控訴でした。
 ちなみに特許事件で有名なCAFC(U.S. Court of Appeals for the Federal Circuit)も、同じくワシントンDCに位置しています。こちらは、特許事件全般の他、米国政府が被告である事件等も扱っています。
 つまり面積的にはそれほど広くない首都ワシントンDCですが、2つの連邦控訴裁判所が存在しているわけです。
 さらに地裁クラスは、上述したDC連邦地裁、DC裁判所以外にも、米国請求裁判所(U.S. Court of Claims、※政府相手にクレームを訴える裁判所。例えばヒューズ・エアクラフト事件は、ここに持ち込まれた)があります。

 余談ですが、この事件がアメリカ法曹界に与え得る影響として、直接的にはないが、法律事務所の多くは今でもワープロソフトに「ワード・パーフェクト」を使っているので、マイクロソフトが劣勢になれば、同社の「ワード」のシェアに影響を及ぼすことも考えられるので、ワープロソフトの勢力図が塗り替えられて、結果的に影響が出るかも、という説を聞きました。
 なお、「WordPerfect」は、MS-DOSの頃には英文ワープロとして絶大な人気を誇っていましたが、Windows時代になると「Microsoft Word」に追い上げられ、徐々にシェアを落としていきました。このあたり、日本の「一太郎」と同じ道のりを歩んでいるようにも見えます。WordPerfect社はノベル(Novel)社に買収された後、現在ワープロ部門のみカナダのコーレル(Corel)社に売却されています。Corel社はグラフィック・ソフトで有名な会社なので、現在のワードパーフェクトには優れたグラフィック・ソフトが付属しているらしいです。
 個人的には、「Wordperfect Ver. 5.2J」に付属していた「Grammatik」という英文法チェック用ソフトが好きで、これはWindows3.1用ですが今でも愛用しています。
 

情報元
・1998年5月13日付ワシントン・ポスト
「Appeals Court Favors Microsoft - Judges Exempt Windows 98 From Curbs on Earlier Versions」
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/WPlate/1998-05/13/138l-051398-idx.html
1998年5月12日付Washingtonpost.com「WashTech -- Appeals Court Ruling in U.S. v. Microsoft」
http://www.washingtonpost.com/wp-srv/washtech/daily/may98/512ruling.htm
司法省のホームページ
http://www.usdoj.gov/atr/cases3/micros/1750.htm



1998年4月23日
 Viagra? Vaegra? Viagro?

 ファイザー社は、商標Viagra(バイアグラ)を侵害されたとして、Vaegra(最初のaはウムラウト)の名称で販売していた業者に対し、仮差止命令を勝ち取りました。同社のバイアグラは、男性の不能治療薬として爆発的に売れているそうですが、類似の名称で似たような効用を謳って漢方薬などを販売している会社が他にも多いそうです。

・情報元および関連情報
 1998年4月22日付 IPO DAILY NEWS
  フジサンケイ US NETWORK NEWS
・Mary Bellis, "Viagra(R)  The Patenting Of An Aphrodisiac", Inventors, About.com (Jan. 30, 1999).
http://inventors.about.com/education/inventors/library/weekly/aa013099.htm
(PCTでバイアグラの製法を特許化)
・"PYRAZOLOPYRIMIDINONES WHICH INHIBIT TYPE 5 CYCLIC GUANOSINE 3',5'-MONOPHOSPHATE PHOSPHODIESTERASE (cGMP PDE5) FOR THE TREATMENT OF SEXUAL DYSFUNCTION"WO9849166A1
http://patent.womplex.ibm.com/details%3Fpn=WO09849166A1%26language=en


1998年4月22日

 ヒューズ対米国政府は原判決支持

 1998年4月7日、CAFCはヒューズ・エアクラフト社対米国政府事件(Hughes Aircraft Co. v. United States)を原判決支持、すなわち米国側がヒューズ社の宇宙船制御に関する特許を侵害したと判決しました。
 この事件も、同日下されたリットン対ハネウェル事件と同様、昨年のヒルトンデイビス最高裁判決を受けて新基準に基づく審理し直しを命じられた事件の一つです。
 CAFCは、ヒルトンデイビス判決の新基準に従っても、従前のCAFC判決を変更する必要がないと判断し、原判決を支持しています。
 ご承知の通り、ヒューズ事件でCAFCは1983年、均等論の問題に関し「発明全体として(invention as a whole)」判断する基準を適用し、地裁の非侵害を覆して侵害と認定しました。しかしながらこの基準は、ヒルトンデイビス最高裁判決により禁じられ、「構成要件毎(element-by-element)」を基準に判断すべきとされました。よって、CAFCはこの問題、および出願審査経過禁反言(prosecution history estoppel)の問題について再検討した結果、構成要件毎に均等を判断しても、1983年の判決と結論は同じで侵害であると判断しました。
 なお、この事件でヒューズ側を弁護したケネス・スター弁護士は、独立検察官としてホワイトウォーター疑惑やモニカ・ルウィンスキ事件に関与していることでも有名です。

情報元
・1998年4月21日付 IPO DAILY NEWS
Hughes Aircraft Co. v. United States, 140 F.3d 1470, 46 USPQ2d 1285 (Fed. Cir. 1998)
    http://www.ipo.org/HughesAircraft.html
・Hughes Aircraft Co. v. United States, 717 F.2d 1351, 219 USPQ 473 (Fed. Cir. 1983)



1998年4月10日

リットン対ハネウェルも地裁へ差し戻し

 1998年4月7日、CAFCはリットン対ハネウェル事件(Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc)を連邦地裁に差し戻しました。この事件は、昨年最高裁のヒルトンデイビス判決を受けて、均等論等の問題をヒルトンデイビス判決で示された新たな指針に従い審理し直すべく、1997年3月17日に最高裁からCAFCに差し戻しを命じられた3件の内の1つです。
 CAFCは、ヒルトンデイビス判決の新基準に従って均等論および出願経過禁反言の問題をいかにして事実問題に適用すべきかを説明し、そのためには判断の基となる禁反言に関する事実問題を判断する必要があるとしています(具体的には出願人が提出した先行技術文献とイ号の比較等)。
 結局ヒルトンデイビス事件と同じく、地裁で事実問題の審理からやり直し、ということになりました。
 なおニューマン判事は例によって個別意見(一部同意、一部反対)を出し、禁反言を生じる条件(審査官が拒絶理由中で先行技術を具体的に引用していなければならない)について述べています。

情報元
・1998年4月10日付       IPO DAILY NEWS
Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 140 F.3d 1449, 46 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 1998).
    http://www.ipo.org/LITTONv.HoneyWELL.html
Litton Systems, Inc. v. Honeywell, Inc., 87 F.3d 1559, 39 USPQ2d 1321 (Fed. Cir. 1996).
    http://www.law.emory.edu/fedcircuit/july96/95-1242.html



1998年3月25日    1999年6月24日修正

 ベストモード開示義務違反は、独禁法違反のおそれ

 1998年3月20日、CAFCはノベルファーマAC対インプラント・イノベーション社事件(Nobelpharma AB v. Implant Innovations, Inc)において、ベストモードを開示しないで取得した特許を基に、これが無効理由を有すると知りながら提訴した場合、反トラスト法違反(Antitrust Violation)、すなわち独占禁止法違反になり得ると判示しました。
 過去の有名な最高裁判決であるウォーカープロセス事件(Walker Process Equip. v. Food Mach. & Chem. Corp.)では、無効な特許に基づいて侵害訴訟を提起した場合は独禁法違反となり得ると判示されています。今回CAFCは、この最高裁判決を引用して判示内容を確認したと言えます。
 通常、IDS等の開示義務に違反して先行技術文献を提出することなく特許権を取得した場合、不衡平行為(inequitable conduct)の問題が生じます。裁判で不衡平行為が認定された場合、かかる特許はすべてのクレームが権利行使不能となります。
 しかし今回は、これよりさらに重いフロード(詐欺)が認定されました。つまり特許権者は、以後権利行使ができなくなるだけでなく、さらに三倍賠償を課される等の厳しい制裁が加えられることになります。
 ノベルファーマ事件では、事実審において陪審はノベルファーマ社がPTOに対し故意にベストモードを開示せず、取得した特許が無効であると知りながら提訴したと評決していました。今回CAFCは、当初2対1に分かれた判決を自ら覆し、全員一致で独禁法違反もあり得ると判示しています。
 従前の1997年11月18日付CAFC判決では、一旦「独禁法違反とは認められない」と判断されていました。このときはリッチ、ローリー判事による多数意見と、プレーガー判事による反対意見が出されています。多数意見は、(1)ウォーカープロセス最高裁判決で判示された「フロード」という意味においては、本件特許はフロードで取得されたと言えない(2)ノベルファーマ社の提訴は、「客観的に見て理由がない("objectively baseless")」とは言えない、と結論していました。これに対しプレーガー判事は、特許庁に対する「積極的な」虚偽の陳述("affirmative" misrepresentation)の有無に関わらず、ウォーカープロセス判決はあらゆる「意図的な」フロード(any "knowing" fraud)に対し適用されると強く主張されていました。
 しかし、今回の判決によって上記決定は取り消され(withdrawn)、代わってCAFCが今回は全員一致で下した修正後の(revised)判決理由によりますと、「情報開示の重大な『欠落(omission、不作為)』は、『積極的な』不実表示と同様に、ウォーカープロセス最高裁判決に基づく独禁法違反の問題をも生じ得るフロードとなり得る」とCAFCは判示しています。
 参考までに、コモンロー上のフロードと、不衡平行為の違いについて簡単に説明します。コモンロー上のフロードは、他人を欺く意図を持って虚偽を表示し、または開示すべき情報を秘匿し、他人がこれらを信用した結果損害を被ったことが要件となります。不衡平行為の認定にはこのような損害は要求されません。一般的に、不衡平行為を広い概念とし、そのうち特に悪性が強い場合をフロードと捉えると、理解し易いと思われます。
 なお、「フロード」は大変広い概念であり、人によって捉え方が異なりますので、興味のある方は判決の原文にあたってみて下さい。

情報元
・1998年3月24日付 IPO DAILY NEWS
・1998年3月26日付 BNA社PATENT, TRADEMARK & COPYRIGHT JOURNAL
Nobelpharma AB v. Implant Innovations Inc., 141 F.3d 1059, 46 USPQ2d 1097 (Fed. Cir. 1998).
    http://www.ipo.org/NobelAB324.html
・(Withdrawn) Nobelpharma AB v. Implant Innovations Inc., 44 USPQ2d 1705 (Fed. Cir. 1997).
    http://www.ipo.org/NobelPharma.htm
Nobelpharma AB v. Implant Innovations, Inc., 875 F. Supp. 481, 34 USPQ2d 1090 (N.D. Ill. 1995).
Walker Process Equipment, Inc. v. Food Machinery & Chemical Corp., 382 U.S. 172, 147 USPQ 404 (1965).
    http://laws.findlaw.com/US/382/172.html



1998年3月10日

並行輸入差し止めに著作権は使えず

 1998年3月9日、米国最高裁による並行輸入に関する判決が出ました。著作権法を適用して並行輸入を阻止できるか否かが争われた事件で、最高裁は全員一致で「消尽」を認め、阻止できないと判示しました。
 並行輸入はparallel goodsや"gray market" importation等と呼ばれています。従来から商標権での保護が模索されてきましたが、うまく機能しなかったため、著作権の適用が検討されました。それが、今回のランザ対クオリティ・キング事件です。(QUALITY KING DISTRIBUTORS, INC. v. L'ANZA RESEARCH INTERNATIONAL, INC.※ヒルトンデイビス事件等と同じく、上告の際に原告被告が入れ替わっています。)
 ランザ社は、米国外での販売用として外国の業者に販売した商品が、米国内に流入することを防ごうとしました。本来ランザ社はヘア・ケア製品をイギリスの業者に販売しましたが、業者に対し米国への輸入の権限を与えませんでした。しかしこの商品がいろんな業者をまわりまわってクオリティ・キング社に転売され、米国に再輸入された模様です。
 ランザ社は自社製品のラベルが著作権の保護対象であるため、著作権法(17 USC)1976年法602条(a)違反で、カリフォルニア連邦地裁に提訴しました。1995年7月、原告の訴えを認め、クオリティ・キング社に対し損害賠償の支払いと、ランザの商品の輸入・販売の差し止めを命じる判決が言い渡されました。この控訴審においても、1996年10月、第9巡回控訴裁判所(※特許事件でないため、CAFCではない)は地裁判決を支持しました。そして今回の最高裁判決で、逆転判決となったわけです。
 ’76年の著作権法は、106条(a)で、著作者は自身の作品の複製を配布する排他権を認められると規定されています。そして、602(a)条で、米国外で取得された作品の複製の米国への輸入は、著作権者が輸入を認める場合を除き、著作権者の有する作品の複製を配布する排他権を侵害する、と規定されています。
 しかしながら、例外として、いわゆるファースト・セール・ドクトリン("first sale" doctrine、※消尽の法理。著作権のついた商品の複製の購入者は、自分が購入した商品を自由に(有料で)貸し出したりすることができるとする連邦著作権法の法理)、すなわち「用尽説」「消耗理論」によって、同法109(a)条で正当な複製品の所有者は、著作権者の許可無くこれを販売することができる、とされています。
 今回の判決で、「用尽説の全体のポイントは、一旦著作権者が著作権に係る物品を販売することによって流通経路に置いた場合は、当該著作権者はその配布を支配する排他権を用い尽くしたことになる点にある。」と最高裁判事ジョン・ポール・スティーブンス(Justice John Paul Stevens)は述べています。
 なお今回のケースでは、正当権利者が販売した真正商品が対象となっていますが、輸入品が外国で製造されている事件には影響を与えないと、ルース・ベーダー・ギンズバーグ判事は同意意見(concurring opinion)において付言しています。確かに本件は、自己の製品が自国に再輸入されるというちょっと特殊なケースであるといえます。一般に並行輸入が問題となるのは、別の国での販売等であると考えられます。ただ、著作権法を使って並行輸入に対処できるか否かという意味では(いいかえると、仮に本件で並行輸入の阻止が認められておれば、当該法理を他の事件でも適用できた?)、本件は注目に値すると思われます。

情報元および参考資料:
Michael Bednarek, Esq. (KILPATRICK STOCKTON LLP)
・「最高裁は、ディスカウント業者が海外で購入したアメリカ製品を販売し続けることを認める」ワシントンポスト(1998年3月10日)
"Court Lets Discounters Keep Selling Court Lets Discounters Keep Selling U.S.-Made Goods They Buy Overseas"
    http://www.washingtonpost.com/wp-srv/WPlate/1998-03/10/037l-031098-idx.html
※インターネット版では"Court Limits Copyright Protection"
    http://search.washingtonpost.com/wp-srv/WAPO/19980309/V000855-030998-idx.html
Quality King Distribs. v L'anza Research Int'l., 45 U.S.P.Q.2d 1961, 140 L. Ed. 2d 254, 118 S. Ct. 1125 (03/09/1998).
http://laws.findlaw.com/US/000/96-1470.html    (FindLaw)
http://supct.law.cornell.edu/supct/html/96-1470.ZS.html    (コーネル大学)



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